素顔のマリィ
結局、月木は美術部、火金は陸上部の掛け持ちをした中学時代。
雨が降ると、体育館での筋トレをサボって美術室に入り浸っていたから。
美術部員として過ごした時間が多かったかもしれない。
好きな音楽をアイポットで聴きながら、ひとり風を切って走り。
無心に筆を走らせ、白い紙に形を蘇らせるのに没頭した。
思えば、わたしは無我になることに拘った。
無心になることで、何かから逃げていた。
自分探しと言いながら、実は自分を流していただけだったのだ。
それを見抜いた大迫は、ある意味、本当の仙人だったのかもしれない。
「坂井、お前は物の上っ面しか見てないだろ」
ある時、デッサンの品評会で大迫が言ったのだ。
「二次元の紙の上では、確かにお前の見た一面しか表現できない。
けどな、物にはお前から見えない、もう片面が絶対に存在する。
芸術ってのはな、その物、そのものをどう表現できるか、ってとこに全てがかかってるんだ。
綺麗に仕上げた絵は、美術品かもしれないが、芸術じゃぁない。
つまり、俺が言いたいのは、お前の絵は綺麗な観賞用の美術品だってことだ」