素顔のマリィ
わたしは必死に先生の質問に答えようと、鳥や虫、花や木の名前を思い浮かべていた。
何故なら、先生は席の順に生徒を立たせて答えさせていたのだ。
一度出た名前は却下される。答えようと思っていた名前が誰かに言われてしまうと、また一から考え直さなければならなかった。
普通の神経を持った小学二年生なら、恐らくわたしと同じようにドキドキしながら答えを考えていたと思う。
「カラスの巣」
流加のその一言で、わたしの注意は窓の外に向けられた。流加の言葉はわたしの緊張を解く魔法の呪文のようだった。
実際カラスの巣にそれほど興味があった訳じゃないと思う。
でも、フワフワ綿毛の向こうでキラキラ輝いていた好奇心旺盛な流加の目をみてしまったら、もう後には引けなくなってしまったのだ。
「わたしにも見せて」
流加の手から双眼鏡を奪ったわたしは、その二つのレンズをドキドキしながら覗いてみた。
でも、なんにも見えなかった。
「見えないじゃない」
わたしは期待を裏切られた反動で、とても不機嫌だった。
嘘をつかれた、とさえ思った。
「マリィ、双眼鏡は自分に合わせないと見えないんだ」流加は溜息混じりにそう言うと、双眼鏡の使い方を教えてくれた。
「先ず自分の目の間隔にレンズを合わせる。そしてこのつまみで見たいポイントにピントを合わせるんだ。カラスの巣はあの大きなケヤキの真ん中当たりにあるよ。そこら辺を狙って覗いてピントを合わせてみて」