素顔のマリィ
「お前らしさってのは、大人ぶることか?」
三年の受験指導が始まる頃、わたしの奇業を見かねた大迫が美術準備室にわたしを呼んだ。
その時のわたしは、眼黒メイクに茶髪にパーマをかけ、香水の匂いもプンプンな見た目不良少女だった。
「だって、わたしらしさなんてわかんない」
「わからないことから逃げてるわけだ」
「いろいろやったよ、でもわかんないものはわかんない。
わたしの大事なものは、もう見つけようと思ってもみつかんない。
それなら、真っ黒のまんまでいい」
「坂井真理、お前は馬鹿か。
自分らしさってものは、見た目じゃなくてここにあるもんだ」
そう言って大迫は、自分の胸を親指でつついて見せた。
「もう馬鹿な真似は止めろ。
お前らしさは十分俺に伝わった。
意地悪言って悪かったよ。俺はやっぱり教師失格だな」
照れたように笑う大迫は、ちょっとだけ顔を赤らめて言った。
「強そうに見えて弱い。
一人で強がってるお前が気になってな」