素顔のマリィ
「坂井真理」
廊下でぱったり会った林先輩に、名指しで呼ばれて、わたしは正直びびった。
だって、彼は180cmはある大男で、おまけに有名人。
加えて彼は陸上部の今期部長を務めることが決まったらしい。
「は、い?」
と不信感丸出しで返事を返したわたしを、先輩は頭を下げて覗き込むように見た。
「今日部活だけど」
「えっと、今日は用事があって……」
「それって外せない用なの?」
「ですね」
「用って何?」
執拗に食い下がる彼は、もしかして顧問の差し金?
部活をサボリまくりなわたしを戒める為に使わされたコマンドなのかしら?
「あのですね、わたしは部活をしたいから部活に入っているわけではなく、走る場所が欲しいから部活に入っているわけで。
なので、皆揃って筋トレしたりタイム測ったりする放課後の部活動は出来れば出たくないんです」
「あぁ……、そういうことね」
「わかって頂けました? じゃぁ……」
「ってわけにはいかねぇよ」
すれ違いさまに腕を掴まれて、身動きできない状態に陥った。
「…ったいですよ、離してくださいっ!」
「今日はどうにも部活に出てもらう」
「はぁ?!」
睨みを利かせて振り向いたつもりだったけど、林先輩の顔はその何倍も真剣だった。