素顔のマリィ
「逃がすかよ、うちの部、今年は長距離候補が少ないんだ。
坂井は長距離!
宮古、すまんがこいつが逃げ出す前に、記録測ってやってくれ」
マネージャーらしきストップウォッチとバインダーを抱えた女子に、林先輩がすかさず指示を出した。
「は〜い、じゃ坂井さん走っちゃいましょ」
逃げられないわよ、と小さく耳打ちされた。
「とりあえず1500。トラック一周300だから、5周ね。足慣らしに一周走る?」
「いえ、結構です」
「余裕じゃない」
「別に選考狙ってないんで」
「ま、いっか。じゃ、いくわよ。
位置について、よ〜い、スタート!」
わたしは示されたスタートラインから、スタンディングポジションで走り出した。
朝連で走りなれたトラックだ。
朝の澄んだ空気とは違い、少し咽返すような熱気が下から湧いていた。
その代わり、キラキラと輝く太陽と人の声。
なんか、こういうシチュエーションで走るのも悪くない。
次第に、タイムを測られてることなんか忘れて無心で足を動かしていた。