素顔のマリィ
「わたしね、林君と同じ中学だったの。それも陸上部」
わたしの脚をマッサージしながら、宮古先輩が話し始めた。
「えっ、そうなんですか?」
わたしは少し大袈裟に驚き過ぎたのかもしれない。宮古先輩は少しだけ表情を強張らせた。
「こんな足で、って思うよね。
でも、中三の夏までは普通に走ってたの。夏休みに交通事故でね。
複雑骨折だったの。筋が切れちゃって、リハビリしたけど元のように走れるようにはならなかった。
でも、日常生活には支障ないし。命は助かったんだもん、幸運だったと思わないと」
そんなに酷い怪我だったんだ、と思った。
「わたしは陸上が好き。早く走ることは叶わないけど、走ってる姿を見るのも好き」
「ですね、カッコいいし」
「同じ選手として、林君の走る姿をカッコいいと思うでしょ?」
「えぇ、まぁ」
「わたしも同じ。あの走りに憧れてた。まぁ、男女の違いはあるけど、あの無駄の無いフォームに近づきたいって思うでしょ」
「えぇ、まぁ」
「貴方ならできる、って思う。多分、彼もそう思ってる」
彼も……、ね。
わたしはマッサージされる脚の痛みより、宮古先輩が林先輩を彼と呼んだことが気に掛かっていた。