素顔のマリィ
それからは毎日、美術室で絵を描く流加と過ごした。
キャンパスに向かう流加の横で、わたしは流加を質問攻めにした。
だって、納得できないことだらけだ。
突然姿を消したあの日から、再会した今までのこと。
流加のお父さんの仕事は風景画家だということ。
アメリカの大自然を描きたいと構想を膨らませた父親に付いて、流加は一昨年までアメリカ各地を転々としていたこと。
アリゾナ砂漠やグランドキャニオン、イエローストーン国立公園、ナイアガラ、ミネソタの沼地。
父親の気の向くままに各地を転々としたらしい。
けれど、流石が高等教育を受ける年頃になり、暫くは落ち着いて日本で教育を受けるのもいいか、ということで戻って来た、らしい。
東京を拠点に、父親は日本各地を写生して回っているのだと、流加は絵筆を動かしながら話してくれた。
だからなのか、この絵の具のもつ独特の匂いがわたしの郷愁を誘うのは。
父親の描く絵に小さい頃から囲まれて育った流加には、この匂いが染み付いていたんだ。