素顔のマリィ

流加は持ち前の好奇心で、色んなものを描いていた。

風景、人物、虫、動物。

写実的な絵、抽象的な絵、そのどれもみんな流加らしい、と思った。


彼の目を通した世界に、わたしはまたもや引き込まれていった。

その世界をわたしも共有したい、と切に願った。


その中には、わたしを描いたわたしも含まれていた。

それは、わたしであってわたしでない。

少なくとも、わたしが知ってるわたしではないように思えたのだ。


「ルカの目に、わたしはこんな風に見えてたの?」

「とも言えるし、とも言えない」

「って、どういうこと?」

「マリィが見ていたのは、彼だろ?」

そう言って、流加が指さしたのは、わたしの視線の先の先。

実際、その絵の先には何もないのだけれど。

「知ってたんだ」

「ずっと見てたからね」

わたし達の会話は、何故かそれで成り立っていた。

「マリィは彼が好きだったの?」

「うん、たぶん」

「たぶん?」

「だって、叶うはずがない恋だったから」

「なんで?」

「彼には他に大切な人がいたから」

「確かめる前に諦めたんだ」

「だって、敵うはずないもん」

「なんで?」

「なんでって、二人が重ねた年月にも、二人が支えあった関係にも」

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