素顔のマリィ
流加とわたしは、抱き合うことすらしなかったけど。
見つめ合うことで満たされていた。
共有する時間が全ての始まりで終わりだと、どうしてあの時気付かなかったのか。
残された時間が残り少ないとわかっていたなら、わたしは勇気を振り絞って流加に触れたのに。
抱き合って、抱きしめ合って、キスして……
そしてきっとひとつになった。
あの時のわたしは、流加に再会できた喜びで一杯で、再び彼を失うなんて微塵も考えていなかったのだ。
ねぇ、君は知っていたのですか?
限りある時間のあることを。
ねぇ、君は全てを知った上で、わたしに触れなかったのですか?
目を閉じれば思い出す、彼の息遣いも。
「マリィ」と呼ぶ、優しい声も。
どれも別れの予兆すら感じさせない自然なものだったから。
わたしはすっかり油断していた。