素顔のマリィ
ソースを味見する口元。
エプロンで水を拭うしぐさ。
玉葱を切る前に、くるりとひと回しして愛でるクセ。
「こらっ、手が止まってるぞ」
視線があう度、怒鳴られた。ま、申し訳程度に。
それにしても目が痛い。
今日はトマトソースとドレッシングの仕込みがあるので、大量の玉葱の微塵切りが必要なのだ。
大分包丁使いにも慣れてきたが、この痛さはいつまでたっても慣れないよ。
「つぅ……」
あの日……、もう少しで玉葱の山が無くなる、という頃、わたしは包丁を滑らせて指を切ってしまったのだ。
白い玉葱が、みるみるわたしの血で赤く染まっていく。
「ばかやろう! 何やってんだっ!」
ぐいっと、左手を上に持ち上げられて、怒った大谷さんと目が合った。
「玉葱が台無しだろうがっ!」
「そこ玉葱ですか」
「当たり前だろ」
そんなやり取りの最中も、彼はわたしの指をじっと見て傷を確認してくれている。
「薄皮めくれただけだな、傷は浅い、気をしっかり持て」
そう言って、こともあろうに彼はわたしの指を口に咥えた。