素顔のマリィ

夏休み、わたしは朝起きると真っ先にあの原っぱに向かった。

何故ならそこには必ず流加が居たからだ。

蟻の引越し先探索は、あれから程なくして解決をみた。

蟻達は原っぱ奥にある大きな樫の木の根元に、新しい巣を作っていたのだ。

巣が出来上がるまでの間、行き場の無い働き蟻達は、大事な荷物を抱えて右往左往していたらしい。

それから流加の興味は大きな樫の木に向けられた。

彼はどうにかしてその大きな木に登ろうと、様々な策略を巡らせた。

二年生でまだ身体の小さな流加は、どうしても最初の枝に手が届かない。

ゴミ捨て場から拾ってきた木箱に乗ってもまだ届かない。

半日と一晩考えて、次の朝、流加は長い紐を家から持ってきた。

といっても縄跳びの紐を二本結びつけて伸ばしだだけだ。

「えいっ!」

何度目かの試みで、高く投げられた紐が一番下の枝にかかった。

「やったぁ!」

見ているだけのわたしも、なんだかそれだけで誇らしげな気分になったけ。

流加はその紐を両手に掴むと、その紐をたよりに木の幹を歩くように上っていった。

「すごおぉ〜い」

わたしはただ賞賛の眼差しで流加を見上げることしかできなかった。
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