素顔のマリィ

まぁ、田中が腕力に物言わせる、俺様タイプでなくて幸いした。

私の嘲笑に、グッ、と押し黙った田中はそのままスルスルとわたしから離れると、酒を煽って潰れてしまった。

気を付けなきゃ、とその時思った。

わたしが双方合意の上、と割り切っていたとしても。

そこに愛が無いなら、付け入る隙があるということなのだ。

あわよくば……、と思う輩が居ないとも限らない。

この田中みたいに。


ねぇ、流加。

貴方はわたしに触れようとは思わなかったの?


どんなに身体を重ねても、流加と共有した時間ほど、わたしの心を熱くすることはできない。

だけど、わたしが追い求めているのは、いつも流加の背中。

走っても走っても追いつかない。

どこまで行けば、この空しさから解き放たれることができるのか?

わたし自身は何処へ行こうとしているのか?


問いかけるも、答えはそう簡単に見つかりそうにない。

だから、それを言い訳に、わたしは自分を甘やかしていた。

< 72 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop