素顔のマリィ

流加と過ごす心地良さは、海に浮かぶ浮遊感に似ているな、と思った。

規則正しく息を吐き、息を吸う。

身体から全ての力を抜いて、浮遊する。

バランスを保った時点から、方向を見定めて動き出すのだ。

伊豆大島の海の底で、わたしはアクアラングを背負いながら、煌く水面を仰ぎ見た。

暑くもなく寒くもない。

ライフジャケットに吹き込まれた空気が、わたしの身体を無重力の世界へと誘った。

海と空の中間に浮かぶわたしは、今、地球の一部となる。

わたしの吐く息が泡となって海面へと上っていく。

綺麗だな。

泡は自分の行く先をちゃんとわかっているのに、わたしは進む方向さえわからない。

右も左も、前も後ろも。

フィンを動かし前へ進む。

いや、これはもしかしたら後退なのか?

目の前に広がるのは道無き海原。

そっか、結局、前に進むしかないんだ。

道しるべが無い以上、自分を信じて進むしかない。


ねえ、流加?

貴方も前に進んでいますか?

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