素顔のマリィ
就職活動先は主に出版関係に絞り、一つでも美術系の雑誌を発行している会社を選んで応募した。
会社の規模は関係ない。
アイデンティティのはっきりしている方が望ましい。
わたしだって、希望通りの配属が望めないことくらいわかってる。
でも、希望があるかないかは重要ポイントだ。
「で、坂井さんの志望動機は?」
「はい。中学・高校では美術部で、主に油絵を描いていました。
大学の専攻は社会学ですが、美術史に興味があり、博物館司書の資格も取りました。
御社の『美術手帳』は昔から愛読させてただいています。
将来、その編集に携われたらと思い、応募させていただきました」
「『美術手帳』は我が社の中でも古い歴史をもつ雑誌ですが、発行部数に伸び悩んでいましてね。
近々廃刊となる予定でいます。
それでも入社を希望なされますか?」
「えっ!」
驚いた。廃刊の事実にも、それをここで告げる面接官にも。
「それは……、残念です。
でも、いつかそれに変わる雑誌が発刊されることに希望を持ちたいと思います。
『美術手帳』を育んでこられた御社の社風に好感を持っていることに変わりはありません。
益々、入社したくなりました!
採用されれば、の話ですが」
直感で、この会社は風通しが良いのではないかと思った。
「わかりました。
では、結果は後日、速達で送らせていただきます」
面接官は中年というよりは青年に近かった。
二十台後半か三十台前半?
平均勤続者年齢はそこそこ高かった筈だけど。
結果は見事採用。
数日後に、内定通知が送られてきた。