素顔のマリィ
「俺、山地裕輔、よろしく」
芸術出版の同期入社は、彼、山地裕輔とわたしの二人だけだった。
まぁ、小さな会社だし、それは仕方無い。
寧ろ選ばれた幸運を喜ぶべきだろうな。
でも……、それが、彼にわたしに対する特別な感情を芽生えさせてしまったようだ。
「坂井と俺って、何か似てない?
まぁ、二人共、採用基準にピッタリ当てはまったってことなんだろうけど。
少なく見積もっても30人は受けたんだぜ、この会社。
選ばれたっていうより、何か運命感じるよな。
二人だけの同期だ、仲良くやろうぜ」
山地裕輔は、人好きのする爽やかな笑顔でわたしに右手を差し出してきた。
「こちらこそ、よろしく」
差し出された手をきっちり右手で受け止めて、わたしは余所行きの顔でニッコリと微笑んだ。
確かに二人だけの同期、無下に邪険にもできない。
けど、面倒くせぇ……