素顔のマリィ

研修が明け、わたし達二人に辞令が下った。

予想に反して、わたしの配属先は書店回りの営業部、販促課。

山地は芸術書関係を扱う企画部、文芸課。

まぁ、二人しかいない新人だから、配置は当然別々だということはわかっていた。

けど……、女の私が営業で、男の山地が企画とは。

販促課の森課長に連れられて来たのは、本社地下の配送倉庫脇の一室。

自然光の全く入らない暗めの室内は、それ以上に雰囲気も暗い。

おまけになんだか埃臭かった。


「今日からお世話になります。坂井真理です。宜しくお願いしますっ!」


それでも気を引き締めようと、精一杯大声で挨拶した。

反応はイマイチ、というか無反応。

わたしの声が狭い室内にエコーのように木霊する。

「うちみたいな専門書は、大手書店か図書館が主な納入先だから。

営業っていっても、そう気張ることは何にもないよ。

気楽に、気楽に」

見回すと、そこにはかなり年齢層の高いベテランばかり。


げげっ、ここは爺捨て山?


思わずそう思ってしまった。

「坂井くんは、そうだな、明日から山下さんと一緒に回ってもらおうか」

森課長の言葉の先に立っていたのは、年の頃60超えの初老の紳士、山下辰三さんだった。
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