素顔のマリィ
「この話は他言無用じゃよ」と前置きしたあと、山下さんは自分と常務の関係をわたしに話してくれた。
常務、西園寺要は山下さんのお孫さんと同級生だったのだそうだ。
だった、と過去形なのは、山下さんのお孫さん、山下大輔さんは15年ほどまえに既に亡くなっているから。
大輔さんと常務は幼少期、家が近くてよく一緒に遊んでいたそうで。
大輔さんと同居されていた山下さんは、休みの日などに、よく二人を連れて美術館巡りに連れていったりしたのだそうだ。
二人共、絵が好きで、よく一緒に写生に出かけたりしていたらしい。
仕事柄、絵画について詳し山下さんは、二人にとって良き理解者であり助言者であったんだろうな。
お孫さんの大輔さんが、突然の事故で亡くなって、友人であった常務との関係もいつか疎遠になっていった。
それが、数年前、既に芸術出版を退職した山下さんのもとへ西園寺さんから連絡が来たのだそうだ。
西園寺家は芸術出版の大株主で、役員にも何人か身内を送り込む影響力を持っていた。
山下さんは、珍しい苗字だとは思ったが、当時は彼の生家にまで考えが及ばなかったのだそうだ。
大学院卒業と共に芸術出版に入社した西園寺要は、当然のように数年後、常務に抜擢される。
だが、時は出版不況。
昔ながらの専門書中心の品揃えでは売上げも右肩下がりで、いつ倒産に追い込まれてもおかしくない状況だった。
常務に課せられたのは、売上げの向上と組織の再編。
そこで常務は、山下さんを再雇用して会社に向かえ、一緒に秘策を考えて貰おうと考えた。
うわぁ〜
いろいろ難し過ぎるよ!