素顔のマリィ
駅に着くと、山地は迷わず同人誌の入った紙袋をロッカーに預けた。
「食事に荷物は邪魔だろ。
それに俺の家、ここからタクって直ぐだから、帰りに寄ればいい」
ほら、行くぞ、と腕を掴まれ、また歩き出した。
なんか強引、いつもと山地の様子が違う。
だけど、お腹も減ったので仕方なく、引きずられるように山地の後についていった。
駅裏の古い路地の一角に、そのスペイン料理屋はあった。
「マスター二人いい?」
店に入るなり、山地は場馴れた様子でカウンター越しに声をかけた。
「お、裕輔いらっしゃい。
……って、これが噂の?」
彼の後ろにわたしの姿を見つけるや、マスターが目を見開いた。
「あぁ、まぁな」
って、何がまぁな、なの?
「いらっしゃい。いつも裕輔がお世話になってます」
山地のふてぶてしい態度とは対照的に、マスターはにっこり笑って、わたしに軽く会釈をした。
「えっ、はい。こちらこそ。
あの、もしかして山地くんのご親戚か何かですか?」
年の頃は30前後。
兄弟には見えないから、叔父とか従兄とかかもしれないけど。
「ん、まぁ、そんなもんかな。親戚って訳じゃないけど、昔からの知り合いです。
こいつは週二くらいでこの店くるから、色々君のことも聞いてて」
「まさか、悪口じゃ」
「まさか」