素顔のマリィ

なんか和やかな雰囲気のもと、運ばれてきたパエリアは凄く美味しかった。

平たい金属皿に敷き詰められたトマト味のご飯の上には、ムール貝や海老、ホタテ、鶏肉なんかがゴロゴロと乗っている。

具の旨みが染み込んだ黄色いサフランライスは、細かく切った野菜の甘味とトマトの酸味が利いて絶妙な味を醸し出していた。

「美味しいっ!」

「だろ」

そう言って、赤ワインを口に含んだ山地の顔は勝ち誇ったように輝いている。

「山地が作ったわけじゃないじゃん」

「そりゃそうだろ」

「だから山地が自慢するとこじゃない」

「俺が美味いって思うもんを、お前も美味いって食べてくれてる。

やった! って思って何が悪い?」

ちょっとだけ頬を赤らめた山地が、口を尖らせて口にした言葉は、なんだか彼に似つかわしくない。

「わたし味覚音痴じゃないもん」

つい口を出た憎まれ口。

「でも、俺の味はわからねぇんだろ?」

「えっ?」

「なぁ坂井、俺のこと味わってみないか」

これはまさかのエッチなお誘いでしょうか?

「それってもしかして、誘ってる?」

わたしが困惑気味に真顔で聞いたものだから、山地が耐え切れず噴出した。

そこ、笑うところじゃないと思うんだけど……

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