素顔のマリィ
確かに彼のこと、恋愛対象として見たことがなかった。
山地は気の合う同僚。
頼りになる友人。
たった一人の同期。
気楽に付き合えて、飾る必要がなくて、彼といると居心地が良かった。
わたしは、彼の優しさにずっと甘えていたのかもしれない。
「俺は坂井のこと、最初から女として見てたよ」
「……なんだ」
「坂井が俺のこと、恋愛対象として見ていないって、なんとなく感じてた。
実際そうだろ?」
「……ん、まぁ」
「この俺が、半年以上も大人しく待ったんだ。
今更振るとか有り得ないから」
「……って?」
「お試しでもいいから、兎に角俺と付き合え!」
「お試しって……、たった一人の同期だよ、そんな簡単にくっついたり離れたりできないよ」
「って、馬鹿だなお前。
お試しで済むわけ無いだろっ!
試したら、即刻購入なんだよ!
勿論、返品は不可だ」
食事を終えて駅までのそぞろ歩き。
わたし達はそのまま荷物をとって、タクシーで彼のアパートへと向かったのだった。