素顔のマリィ

確かに彼のこと、恋愛対象として見たことがなかった。

山地は気の合う同僚。

頼りになる友人。

たった一人の同期。

気楽に付き合えて、飾る必要がなくて、彼といると居心地が良かった。

わたしは、彼の優しさにずっと甘えていたのかもしれない。


「俺は坂井のこと、最初から女として見てたよ」

「……なんだ」

「坂井が俺のこと、恋愛対象として見ていないって、なんとなく感じてた。

実際そうだろ?」

「……ん、まぁ」

「この俺が、半年以上も大人しく待ったんだ。

今更振るとか有り得ないから」

「……って?」

「お試しでもいいから、兎に角俺と付き合え!」

「お試しって……、たった一人の同期だよ、そんな簡単にくっついたり離れたりできないよ」

「って、馬鹿だなお前。

お試しで済むわけ無いだろっ!

試したら、即刻購入なんだよ!

勿論、返品は不可だ」

食事を終えて駅までのそぞろ歩き。

わたし達はそのまま荷物をとって、タクシーで彼のアパートへと向かったのだった。
< 95 / 187 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop