素顔のマリィ
そんな緩い感じで始まったわたし達の交際。
付き合ってる、と言っても、その関係はたいして今までとは変わらなかった。
まだまだ新人のわたし達には雑用も多かったし、そう責任のある仕事を任されるわけでもなかったし。
学ぶべきことが沢山あって、こなさなきゃならないルーティンワークは限りなく。
日常に飲まれそうになる。
そんな時、彼との関係は、わたしにとっての起爆剤だった。
彼がいたから、お互いに仕事に切磋琢磨し、二人で感性を磨きあうことができた。
編集者として、どういう自分でありたいか。
男と女である以前に、人間としての自分を見極めたい。
究極的にそれが芸術を理解することに繋がると思うから。
その思いがわたし達を結びつけていた。
多分、裕輔もわたしと同じように考えていた筈だ。
「基本、社会性のないインスタレーションは無意味だと思うんだよね」
「美しさと感受性の表現も無意味なわけ?」
「美しさでいったら、空間に置かれた一輪の花に勝るものはないでしょ。
芸術とは、何らかの意味づけをそれに加えるものであるべきだと思う」
裕輔はアニメやコミックは娯楽の延長戦上にある芸術の新領域だと主張していた。
なので、純粋芸術に対する彼の評価は極めて辛い。
単なる美しさや感受性を刺激するだけの、表面的な芸術性を彼は認めていなかった。
「マリの身体がどんなに美しくても、それを芸術だとは俺は口が裂けても言えないね」
裕輔とわたしの関係は、あくまで対等。
少なくともわたしはそう思っていた。