Summer of the Dead ~サマー・オブ・ザ・デッド~
「逃げるぞ!」
誰かがそう言ったのを皮切りにクラス中が一斉に行動を起こした。
堰を切ったように廊下へと駆け出して行く。
「どけ!」
「うるせえ、邪魔だ!」
「きゃあぁぁっ!」
非力な何人かの女子が突き飛ばされ、机にぶつかり倒れ込んだ。
他の教室からも生徒が溢れだし、廊下は混乱状態となった。
つまずいた生徒は誰に起こされることもなく、我を忘れた集団に踏みつけられていく。
狭い空間で苛立ち、誰かれ構わず殴り始めるものまでいた。
私達は、開け放たれた扉から唖然とそれを見つめていた。
巻き込まれなかったのは、武志が動こうとした純也と幸希の襟首を掴んで「待て!」と鋭く言い放ったからだった。
冷静な武志のおかげで助かった。
あの中に入っていたら、力の強い純也や長身の幸希ならともかく、私や特に小柄な澪は怪我じゃすまなかったかもしれない……。
しばらく待つと、廊下の人影もまばらになってきた。
「そろそろいいかな」
「ちょっと様子見てくるか?」
男子三人が顔を見合わせて足早に歩いていく。
私が澪の手を取って、その後に続こうとすると、
「……待って」
と、か細い声が耳に届いた。