Summer of the Dead ~サマー・オブ・ザ・デッド~


非常階段にゾンビはいなかった。


普段使用禁止で、一年生の時に避難訓練で一度利用しただけだから忘れていた。
外側は落下防止用にコンクリートの壁が胸の高さまであって少し屈めば校庭からは見えずらいのだ。


音さえ立てなければ、まだ安全なのかな。





一階まで下りて行くと、一番下に体育座りで身を潜めている澪を見つけた。


その場所は校庭からは死角になっている。



「あおい! なんですぐ逃げなかったのよ!」


私を見つけると、澪は小声で怒りながらも、抱きしめてくれる。


いつも通りの温もりに、何だか安心する。


ご立腹の澪をなだめながら事情を説明すると、今度は澪が教えてくれる。


「東階段は純也と武志が見に行ったんだけど、先に逃げた人が二階で襲われてたんだって。それで、武志が思いついて非常階段で下りることにしたの」


「そうだったんだ」


「そう。それなのにあおいが来ないから澪が戻ろうとしたら、純也が『おれが行く!』って血相かえて走って行っちゃったの。しかも澪のことバン! って押したんだよ、バンって!」


思い出して澪がむくれるが、純也はそっぽを向いて「記憶にねえな」とボソリ言っている。
いまだ、背中には小百合を背負ったままだ。本当に重くないらしい……。


澪がさらに文句を言おうとしていたので、私は話しを変えることにした。


「それで、幸希と武志はどこ?」


すると、澪が校舎と体育館を繋ぐ渡り廊下を指さす。



そこには物陰に隠れながら、体育館の方へ移動して行く武志がいた。



そして、


「……あおい、無事でよかった」


と、反対側からばつが悪そうな声が耳に届いてきた。


見ると、数メートル先で、校舎と渡り廊下を遮るくもりガラスの扉を、幸希がしゃがんで押さえていた。

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