Summer of the Dead ~サマー・オブ・ザ・デッド~
「ちょっと、待ってください。先輩!」
「この中でこれを扱えるのは、私とあおいさんしかいないわ」
「でも……」
「素人では、真っ直ぐ飛ばすことも困難よ」
紫音先輩は、ステージ横に置いてあったあるものを、私の胸にグイッと押し当てて渡した。
全長約2メートル。
しなやかで美しいフォルムのそれは、私が興味本位で始めた部活──弓道に使う弓だった。
「最近、部活にはあまり顔を出してはいなかったけど、センスはあるんだし、あおいさんにならできるわ。他の道具はここに入っているから」
ボスン、と置かれた大きなバッグの中には、大量の矢と矢筒、手を保護する手袋状の〈ゆがけ〉が入っていた。
端(はな)からゾンビと戦うつもりだったのか、先輩は体育館にくる前、これを取りに行っていたらしい。
私が受け取ったのは予備の弓だ。
「あとはあなた」
先輩は次に純也に話しかける。
「純也君は、確か剣道部よね」
「ああ」
「竹刀か木刀があれば、戦えるかしら?」
「……まあ、木刀があるなら」
純也が答えると、紫音先輩は武志に向き直り、「どうかしら」と反応を待つ。
それを受けて武志は「なるほど」と頷き、私達に説明するように話始めた。
「ようするに先輩の言う方法とは、〈静かに移動して、もしもの場合は戦う〉。それだけですか」
「そうよ」
「確かに先輩が言うように、ゾンビは目が見えずに音を頼りにしているのであれば、その方法も可能かもしれません」
ゾンビはおそらく目が見えないというのは、私も経験上、正しいと思う。
「先輩の弓はかなりの腕前だと聞いたことがありますし、純也もバカ力で剣道もうまい。あおいも運動神経は悪くないから2人のフォローぐらいはできるでしょう。────だけど」
「だけど?」
「圧倒的に戦力不足です」