Summer of the Dead ~サマー・オブ・ザ・デッド~
「みんなどうした? ニコニコして」
「恐怖でおかしくなったか」
木刀片手に体育館に入ってきた2人は笑顔の私達を見てキョトンとしていた。
市外へ避難する覚悟ができたことを話すと、武志は「そうか」と頷き、純也は「ま、それしかねえよな」と遊びにでも行くような軽いノリで答える。やはり2人も、ここから逃げることを考えていたらしい。
全員の意志が固まったところで、さっそく武志が、
「じゃあ、紫音先輩と合流しよう」
と、みんなを見回す。
「見てきた限りでは、ここから部室棟沿いに進めばゾンビはほとんどいなかった」
校舎と体育館を挟んで右側に部室棟、左側に校庭がある。校庭はゾンビだらけだけど、授業中人のいない裏側はまだ安全なようだ。
「移動するなら早い方がいい」
「そうだね」
「うん」
さっそく矢筒を肩に斜め掛けにして、ゆがけを付けた右手に矢を一本握った。
左手にはもちろん弓。弓を引けばいつでも矢を射出できる状態にした。
予備の矢が入ったバッグを澪に預けていると、小百合の前に背中を向けた純也が屈み込んだ。
「えっと、あの……」
「まだ、足痛いんだろ」
「はい。……でも」
「早くしろ。置いていくぞ!」
小百合は戸惑っていたけど、厳しい口調で一喝され純也の首に手を回す。
「ちょっと純也! 女の子にはもっとやさしくしなさいよね」
見かねた澪がたしなめるが、「うるせっ」とそっぽを向く。
純也らしい態度なんだけど、澪は頬を膨らませて、
「まったく、そんなんだから彼女ができないのよ。脳筋ゴリラ」
と、しばらく言い続けていた。
そんないつも通りのやりとりに、武志と私は「ぷぷっ」と小さく吹いてしまった。
大丈夫。
明日も明後日も来年も、こうして笑い合える。
この時は本気でそう思えた。