Summer of the Dead ~サマー・オブ・ザ・デッド~
「行くわよ」
紫音先輩が弓を引き絞り、狙いを定める。
ヒュン、と小気味よく風を切った矢は、大柄なゾンビの眉間に突き刺さった。
ゾンビは弾かれたように後方に仰け反り、バタンと音を立てて倒れこむ。
近くにいたゾンビがその音につられ、正面に道ができた。
間髪いれずに柏木先輩が歩き出し、私達はその後に続く。
もう後戻りはできない……。
だけど、静かに無音で歩こうとすると思いの他速度が上がらない。
内臓のはみ出した死体を直視しないように避け、小石一つに神経を使っていると、ゆっくりふらついているゾンビの動きですら機敏に思えてくる。
まだ、10メートルも進んでいないのに、先輩が早くも次の矢を射る。
再びゾンビが倒れ、そこに他のゾンビが群がる。
けど、なにもないことが分かると、すぐにまた四方に散ってしまう。
前方にはまだ、20体ちかいゾンビがさまよっている。
進むにつれて、後方もゾンビに塞がれつつあった。きっと上空から見たら私達はゾンビに囲まれて立ち往生しているように見えることだろう。
張りつめた空気に、気だけが焦ってしまい、走り出したい衝動にかられる。
そんな時だった。
女子生徒の死体を跨いだ武志の体がガクッと傾き、地面に膝を落としたのは。
「うわっ!」
「きゃあ!」
辛うじて小百合はしがみつき、転倒も免れた。
でも、声を出してしまった。
しかも、横たわっていた死体の手が武志の足首をしっかりと握っていたのだ。
うつ伏せで倒れていて、勝手に死んでいると思い込んでいた。
よく見るとそれは、死体ではなくゾンビだったのだ。