Summer of the Dead ~サマー・オブ・ザ・デッド~
そこには、金属バットを手にしたスーツ姿の男の人が立っていた。
「こっちだ! 早く!」
駆け寄ると、その人は開けていたドアの中へと私達を誘導する。
そこは、交差点の角にある喫茶店の裏口だった。
滑り込むようにして入ると、静かにドアが閉められていく。
男性はしばらく外に聞き耳を立てた後、「もう、大丈夫だ」と言ってこちらに向き直った。
見ためは平凡な20代サラリーマン。
「あ、ありがとうございます」
「助かりました」
「いいや、困った時はお互い様だからね」
お礼を言うと男性はそう返事をしながら、なぜか床にぺたりと座り込んだ私と澪を値踏みするように見始めた。
「……あ、あの、なにか?」
「い、いや、怪我してるみたいだと思っただけだよ。向こうで治療しようか。飲み物もあるよ」
飲み物。そう言われると、無性に体が水分を欲していることに気付く。
夕方とはいえ、真夏にあれだけ走り回れば喉はカラカラになって当たり前だ。
「水、貰う?」
「うん、飲みたい」
「ジュースもあるから、さあ入って」
私達は、男性に促され通路を進み喫茶店のお店の中へと入った。
──だけど、それは軽率な行動だった。
「わぁおっ! 女子校生じゃん!」
中には、もう一人スーツ姿の軽薄そうな男性が待っていた。
テーブルは隅の方へと移動され、中央には人が横に慣れる2つ合わせのソファが二組。
その男性は、あからさまに私達を舐め回すように見て、何故か私と澪を別のソファに座らせた。
この人たちは、もしかして……。
そう思った時には遅かった。