Summer of the Dead ~サマー・オブ・ザ・デッド~
「俺こっちね」
そう言って、軽薄な男性が澪の肩に手を回した。
「な、なにするの!」
澪が慌てて身を引く。
「お~い、逃げるなよ。表で見ただろ。どうせあの化け物に喰われてみんな死ぬんだ。死ぬ前に気持ちいいことしようぜ~」
いい大人が、なんて考え方をするのだろう。どうかしている。
「やめてください!」
私が立ち上がると、もう一人の男が前に立ちはだかった。
「どいてください!」
咄嗟に持っていた矢を弓につがえて構えると、
「おとなしくしてろ! 殺すぞ!」
助けてくれたはずの男が豹変した。
金属バットを顔に突きつけて脅してくる。
信じられない。
外にはゾンビが溢れて、大勢の人が死んでいるというのに。
こんな時に、人間に襲われるなんて……。
「いやっ! はなして!」
「おい、暴れんなよ!」
澪がソファに押し倒されるのが目の隅に映った。
恐怖よりも怒りがこみ上げてくる。
「本当に射(う)ちますよ!」
「くっ」
頭にきた勢いで怒鳴り声を上げると、目の前の男が一瞬ひるんだ。
その隙に、澪にのし掛かる軽薄な男に、私は躊躇わずに矢を放った。