Summer of the Dead ~サマー・オブ・ザ・デッド~
それは、一年中ジャージ姿の体育教師、山田先生だった。
……でも、様子がおかしい。
首はダランと垂れ下がり、口からは涎を滴らせ、つま先が後ろを向いた足を引きずるように歩いている。
ジャージは土と血に汚れ、そして…………右肩が──ない。
獰猛な獣にでも齧(かじ)られたように胸元まで深く抉(えぐ)れ、肉と骨が剥き出しになっていた。
その姿はどう見ても歩ける状態じゃない。
いや違う。
……生きていける状態じゃない。
山田先生は──死んでいる。
死んでいるのに動いているのだ。
「い、いやあ!」
今度は咄嗟に悲鳴が出た。
でも、それがいけなかった。
「──!?」
山田先生だったものが、声に反応したのだ。
ピタッと足を止め、音の出所である私に視線を向けた。
黒目のない白く濁った眼が、呪いのように私を見据えている。
そして、急に動きを早めガクガクと不自然な動きでこちらへ一直線に向かってきたのだ。
「ガ、ア、ッァアア!!」
低いうなり声を上げて。
「こ、こないでっ!」
すぐに気付いた。さっきの男子達は、これから、この怪物のようになってしまった先生から逃げていたのだと。
怖い! 早く逃げなくては。
だけど、突然のことで、恐怖で体がいうことをきかない。
それはもう、すぐそこまで迫っているというのに。
「うっ! ……くっ……」
先生だったものの、動くはずのない腕が伸びてくる。
両肩をがっちりと捕まれ壁に押しつけられてしまう。
反射的に伸ばした手で抵抗を試みるが、凄い力で歯が立たない。
少しずつ生気のない変色した顔が目前に迫ってくる。
糸を引いた口が大きく開かれた。
殺される。
…………私は死を悟った。