Summer of the Dead ~サマー・オブ・ザ・デッド~
家に向かっていると、今度は柏木先輩が玄関から出てくるのが見えた。
先輩は私のいる門の方向ではなく、家に沿って歩き始める。
芝生の上を、相変わらずの無表情で進んでいく。
そのまま行くと平屋、確か道場がある。
何をしに行くんだろう?
別のことを考えたかった私は、知らず知らず後を追っていた。
先輩は予想通り、道場の中へと入っていく。
少し迷った後、そっと横開きの戸を開いてみた。
木材と汗の入り交じった剣道場特有の臭いが鼻をつく。昔、町道場に通う純也に何度かくっついていったことがあるから、懐かしさを感じる臭いだ。
先輩は道場の真ん中に正座をして、こちらに背を向けていた。
音を立てないようにゆっくり戸を閉めると、
「こっちへ」
先輩はこちらを見もせずに言った。
流石は剣道の達人。気配で分かるってやつだろうか。
私は上履きを脱いで、言われるままに先輩の正面まで進んで同じように正座をした。
「やっぱり、君か」
私を確認すると、若干雰囲気が和らいだように見えた。
「それで、なにか用かな」
「えっと……、先輩の姿が見えたもので、つい、付いて来ちゃいました」
我ながらなにを言ってるんだかとは思うけど、正直に告げると、先輩はさして気にした様子もなく「そうか」と言って膝の上に置いていた物を目の高さまで持ち上げた。