Summer of the Dead ~サマー・オブ・ザ・デッド~
「本物ですか……」
それは黒い鞘と鍔、凝った意匠の柄を持つ日本刀だった。
「ああ。父の持ち物だけどね。木刀よりは使える」
そう言って鞘から抜くと、顔を近づけて刀身を剣先から確認していく。
光を反射する刀は美しくて、綺麗な顔立ちの先輩を一層際立たせていた。
「あの、今日は何度も助けてくれて、ありがとうございます」
ふと、思い出して頭を下げると、
「いいんだ……。それが僕の存在意義だからね」
先輩は、なぜか悲しげに目を伏せた。
あまり感情を表に出さない先輩にしては意外だった。
さらに、その後に先輩の口から出た言葉は意外を通り越して衝撃的ですらあった。
「僕はね。前に一度、人を殺したことがあるんだ」
「でも、それって……。それは、試合中の事故だって聞きましたよ」
昼間に体育館で武志が言って、紫音先輩が否定した話。
「いいや。あれは、事故ではなくて【故意】なんだ……」
先輩は刀を鞘に戻すと、私をじっと見据えてきた。
力強くて吸い込まれそうな、でも切なげな瞳……。
「…………懺悔を、聞いてくれるかな」
先輩は抑揚のない声で淡々と語り始めた。