Summer of the Dead ~サマー・オブ・ザ・デッド~
──それは、地獄絵図だった。
悲鳴を上げ必死に逃げまどう生徒達。
それを追いかける眼の白く濁った血塗れの人々。
中には先ほどの山田先生と同じ教師達の姿もある。
捕まった生徒は噛みつかれ、肉をむしり取られている。食べられているのだ。
玄関から校門にかけて、死体が転がり死人が蠢(うごめ)いていた。
ここからはうまく見えないけど、おそらくその左側に広がる校庭も……。
「……な! なんなのあれは!」
思わず取り乱して振り返ると、柏木先輩は口元に人差し指を当てて静かにするようにとポーズをとり、小声で話し始めた。
「僕にも理由はわからない。部室で授業をサボっていたら、悲鳴が聞こえて、表に出たらこの有様だった」
先輩は警戒するように一度玄関に目をやり、視線を戻す。
「慌てて部室にこいつを取りに戻って、渡り廊下から校舎に入ったら君が襲われてたんだ」
そう言って木刀を、ぎゅっと握りしめた。
「噛まれていないか聞いたのは、噛まれると襲っている奴らと同じになるからだ」
「おなじに?」
「そう、死のうが死ぬまいが奴らに噛まれてしばらくすると奴らと同じように人間を襲い始める。まるで、映画で観たゾンビのようにね……」
ゾンビ……。
きっと、ただ説明されただけならそんな冗談みたいな話信じられなかっただろう。だけど、こうやって人が人を襲い食べている惨状を目の当たりにしたら信じるしかない。
これはリアルなのだと。
「でも、保健の先生は?」
「君に噛みつこうとしていた」
そう言われブルっと寒気がする。
まったく気付かなかった。
もし、山田先生に襲われなかったとしても、あのまま何も知らずに保健の先生を助けようとしていたら私は死んでいたことになる。
柏木先輩は助けてくれたのに、疑った自分が恥ずかしい。
「あの、先輩──」