Summer of the Dead ~サマー・オブ・ザ・デッド~
──バンッ!
お礼を言おうと口を開きかけたその時、下駄箱から大きな衝突音がした。
「いやっ! やめて! ぎぃぁあああああああっ!」
慌てて見ると、玄関まで逃げてきた女子生徒がゾンビに囲まれ鼻を食い千切られるところだった。
顔の中央から鮮血が飛び散り、白いブラウスまでが真っ赤に染まっていく。
ゾンビは美味しそうでも不味そうでもなく、ただ無表情で女子生徒の鼻を咀嚼(そしゃく)している。
「うあっあ……」
女子生徒は声にならない声を発しながら、足や腕にも次々とかじりつかれ、ゾンビの集団の中に埋もれていった。
「……行こう」
柏木先輩が私の手を引き、足早に来た道を戻り始めた。
先生の死体が転がる保健室を通り過ぎ、渡り廊下の手前の階段まで来ると立ち止まった。
「何が起こっているのか状況は理解出来たね」
私は無言で頷く。
理由はわからない。だけどゾンビが人を襲っているのだ。捕まればそれは【死】を意味する。
「もうすぐここにも奴らがやってくるだろう。手遅れになる前に、僕は一度自分のクラスの様子を見に行こうと思う」
そう言われると私も気になり始めた。
澪や純也、クラスのみんなはどうしたのだろうか。学校からすでに逃げたのか、それともまだ教室にいるのだろうか……。
「……私も、自分の教室を見に行きます」
「わかった。それじゃあ行こう」
階段を上ると、まだたくさんの生徒がいるようで多くのざわめきが響いてくる。
ゾンビはまだ二階までは来ていないらしく、不安げな生徒達が廊下を行き交っていた。
一階以外はまだ安全らしい。
少しほっとして三階まで来ると、
「それじゃあ、気をつけて」
と、先輩はさらに階段を上って行ってしまった。
三年生の教室は四階、私の、二年生の教室は三階にあるのだ。
柏木先輩があっさり行ってしまうと、一瞬不安な気持ちがこみ上げてきたけど、それを頭を振って振り払って自分のクラスへと向かった。