Summer of the Dead ~サマー・オブ・ザ・デッド~
そこは──死の町そのものだった。
自衛隊のヘリを見て、もうすぐ逃げられる。この死の町から出られる。
陸上競技場に着けば……。
そう、心のどこかで思っていた。
だけど、そんな希望は一瞬で打ち砕かれてしまった。
飛び交う怒号と悲鳴。
競技場の敷地内は、逃げまどう人々と、それを追い喰らうゾンビで入り乱れていた。
さっきの音の正体であろう、ゾンビに銃をむける自衛隊員の姿も見える。
「なんなの……これは」
「おそらく、私達と同じ。自衛隊のヘリコプター目当ての人達と、その人達もしくはヘリの音に引き寄せられたゾンビね」
「そんな……」
昨日体験した学校、いやそれ以上の地獄絵図だ。
「せっかくここまで来たのに」
小百合が早くもガックリと肩を落とす。
しかし、
「どうするんですか?」
と、紫音先輩を窺うと、
「もちろん──」
「行くぞ!」
純也が先輩の言葉尻を受け取る。まるで武志のように……。
だけど、その表情は、冷静な武志とは違い怒りに満ち溢れていた。
きっと、武志と澪を失った悲しみを怒りに変えてるんだと思う。
私も、初めて見る純也の涙がなければ動くことさえできなかったから、その気持ちはなんとなくだけど分かった。
「こんな町、すぐに出るぞ!」
「そうね。自衛隊がいるということは、ヘリは必ずある。でも急がないと、この混乱ではすぐに撤収してもおかしくないわ」
確かにこの状況では救助どころではないだろう。
「わかりました」
「あ、あおいちゃん、離れないでね」
気を取り直した小百合が、私の手をぎゅっと握り締める。
「僕が道を開く」
柏木先輩が日本刀をスラッと抜き放つ。
こうして私達は、助かるために自ら死地へと足を踏み入れるのだった。