マイ リトル イエロー [完]
押し殺したはずの泣き声が口の端から溢れ出て全身を震えさせた。
お鍋の火を止めて、何も洗うものは無いのに、蛇口を捻って、水が流れる音で泣き声をかき消した。
ザーッと音を立てて、無色透明の液体が渦を巻いて排水溝に流れていく。
もうスープは沸騰しきっていたし、パスタは伸びきっていた。
ああ、こんなんじゃ、美味しいって言って貰えないな。
「……花菜?」
私の異変に気付いたのか、聡真さんがゆっくりとキッチンに近づいてきた。
私はもう顔を両手で覆わないと涙を隠せない状態になっていた。
「花菜、ごめん、さっきの言い方キツ過ぎたか……」
彼の言葉に、私は首を横に振った。
「別に花菜を疑ってるわけじゃないよ。ただ……」
「違う……」
絞り出した声は思ったよりずっと震えていた。
「え?」
「違う、私は、そういうことを言いたいんじゃ、ないっ……」
「花菜……?」
あの明るい黄色が、どんどん霞んでいく。淀んでいく。見えなくなっていく。
止まらない。この悲しみを、言葉にする以外の方法で、発散する術が見つからないの。
「21時に帰ってくるって、あなたが言ったの」
「え……」
「あなたにとって、たった40分の遅れかもしれないけど、あなたが、久々に家でご飯を食べれるって、言ったのよ……っ?」
とんでもなく肩が震えてるし、もしかしたらこの距離でも聞こえないんじゃないかってくらい、声が小さい。
「花菜、ごめん、言い訳じゃないけどさっき偶然」
「いいの、もう。あなたの口から“遅れてごめん”って言葉が出てこなかった時点で、もうこの話は終わってるの」
「……花菜っ、待って」
「……待てないよ。だってさっき聡真さんは、私の話を最後まで聞いてくれなかった……待ってって、言ったのに、聞いてくれなかったっ……」
そう言うと、聡真さんは自分がした行動を一瞬で悟ったような、そんな表情をした。
そして、私の両肩を掴んで、真剣な瞳でもう一度謝った。
でも私は、何も心が動かなかった。