マイ リトル イエロー [完]
「折角もじゃもじゃSEに取られないように必死にアプローチしてゲットした嫁さんなのに、お前何やってんだよ」
「約束を平気で破るようになってたんだ……いつの間にか。あと、花菜の話を聞いてあげられなかった」
「……どういうこと?」
訝しげに眉を顰めた佐久間に、俺は一昨日の出来事を事細かに伝えた。
約束を破ったのに最初に謝らなかったこと、俺の好物ばかりの料理を作って待ってくれていたこと、後に写真投稿型SNSを見たら嘉藤との写真がタグ付されていたこと……。
全てを聞き終えた佐久間は、呆れを通り越した間抜け面をしていた。
「お前なんなの? 俺が花菜ちゃんなら自分の美貌生かしてどっかのイタリアン料理のシェフととっくに浮気してるわ」
「おいやめろよその例えリアル過ぎんだよ」
「なんかさー、お前さ、確かに男は仕事できてこそ、みたいな所あるけど、それを家庭に持ち込み過ぎるのはどうかと思うわ」
「……そうだよな」
「花菜ちゃんまじかよー、俺が幸せにするよー。今度会ったら誘惑しとこっと」
泣きまねをしながら佐久間がそう嘆いた。
俺は本気で佐久間のふくらはぎを蹴っ飛ばした。
佐久間は痛がって笑っていたけど、暫くすると少し本気のトーンで話し始めた。
「結婚記念日までに、なんとかしろよ」
「ああ……」
「お前俺がどんだけご祝儀渡したと思ってんだ。別れたら許さん」
……そうだ。こいつは、友人の中で誰よりも多い額を渡してくれたんだった。
「お前さ、仕事に流されてなんか大切なもの忘れてんじゃねーの?」
「大切なものか……」
「なんかねーの? 結婚当初した約束とか、決め事とかさー。花菜ちゃんが気持ちにおいて大切にしようって言ってたこととかさ」
「気持ち……」
「てかお前なんか具合悪い? 顔色悪いぞ、気をつけろよ」
いつも笑っている花菜が、大切にしていたこと。
結婚した当初繰り返し同じことを言っていたような……何か大切なことを忘れている気がする。
俺は佐久間と分かれて仕事に戻り、一旦その疑問を頭の隅にどけた。
* * *
家に帰ると、散乱している洗濯物を見て疲労がドッと増した。
たった三日なのに、バスタオルや下着、Yシャツ、ハンカチなど、ありとあらゆる衣類がソファーに山積みになっていた。
さすがに今日は洗わなくてはならない……そう思い、全てを洗濯機にブチ込んだ。
1人暮らしは初めてじゃないから大方家事はできるけど、好きか嫌いかで言ったら間違いなく家事は嫌いだ。
俺は規定の分量を無視して、適当に洗剤をタンクの中に蒔いてスイッチを押した。
しんと静まり返った部屋は、電気をつけると逆に落ち着かなかったので、俺はテレビと小さな間接照明だけつけた。
薄暗い部屋に、洗濯機のゴウンゴウンという無機質な音が響く。
山積みだった洗濯物が無くなったソファーに、俺はどかっと深く座った。