マイ リトル イエロー [完]
「けほっ」
……なんだか一昨日あたりから喉がひどく痛い。ろくに飯も食わずに働きづめていたからだろうか。
テレビの白い光がやけに強く感じて、俺は視線をローテーブルにおとした。
ローテーブルに置いてある卓上カレンダーをなんとなく見ると、ツツジの写真から菜の花の写真に変わっていることい気付いた。
手前にある菜の花にフォーカスを合わせていて、背景の菜の花はぽわぽわと明りを灯しているような温かみのある写真だ。
「けほ、げほっ……」
菜の花を見ると、真っ先に初めての結婚記念日を思い出す。
偶然休日だったから、俺は張り切ってどこか遠くへ行こうと計画していたのに、花菜は菜の花が見たいと言ったんだ。
「げほ、んんっ、はー……」
まずい。咳が止まらなくなってきた。完全に風邪を引いたようだ。
俺は一杯水を飲んで、栄養剤が無いか冷蔵庫を漁ったが無かった。
明日は重要な会議があるのにこんな状態ではまずい、そう思った俺はコートを羽織り直してコンビニへ向かった。
外に出てからテレビをつけっぱなしで出てきてしまったことに気付いて、俺はもし花菜がいれば絶対に気付いて消してくれただろう、とぼんやり思った。
「あ」
コンビニに入ると、飲み物売り場の前でやけに派手な顔の男が俺を見て立ち止まった。
マスクをしたままぼんやりとそいつの顔を眺めていると、なんとなく見覚えがある気がしてきた。
「西野です。奥さんには力になってもらってます」
「ああ、西野君か……久しぶり」
「具合悪そうですけど、大丈夫ですか?」
顔立ちのハッキリとした男前の西野君とは、花菜と一緒に挨拶をしにいく時以来の再会だった。
俺は朦朧とする意識の中、なんとかビタミンウォーターと栄養剤を手に取り、籠に入れた。
「いきなりシフトの変更貰ったんですけど、奥さん何かあったんですか?」
ありまくりだよ、今家にいないんだよ……そう思いながら黙っていると、西野君は俺の返答を聞かなくとも納得してしまった。
「もし奥さんがいたら、体調悪いのに自分で栄養剤買いに来たりなんてしないですよね」
「……そうだな」
容易に察されてしまったことに、俺はちょっと自嘲気味に笑ってしまった。
それから、少し低い声で探るように質問をした。