マイ リトル イエロー [完]
「俺の妻と、どこか行く予定だったんですか?」

「え?」

「妻が、そう言ってましたけど」

そう言い放つと、彼はきょとんとした表情をしてから、すぐに“ああ”と呟いて、今度は彼が苦笑した。

「……本当にちゃんと会話できてないんですね」

「……どういうことですか」

「奥さんの話を、ちゃんと最後まで聞いてあげたんですか?」

最初は俺を少しバカにするような話し方だったが、段々と花菜に対して同情めいたような、悲しそうな声のトーンに変わって行った。

「多分奥さんは、いっぱいサインを出していたと思いますよ」

「……結局なにが言いたいんですか」

「俺と久城さんの奥さんが出かける訳じゃないですよ。花菜さんには、俺の彼女と食事をして、何が欲しいのかそれとなくリサーチしてくれって、頼んだんです」

「え……」

「でも、まあ、俺もそんなこと頼むのは間違ってたかもしれないんで……すみません。この件については無しにしようって、伝えておきますんで。じゃあ、俺はこれで……」

礼儀正しく頭を下げて、彼はタバコを買ってからコンビニを出て行った。

俺は、あの時言った自分の台詞や行動、花菜の悲しそうな表情を思い出して、罪悪感の波に飲み込まれた。

『……どうして? さっき聡真さんは、私の話を最後まで聞いてくれなかった……待ってって、言ったのに、聞いてくれなかったっ……』

「花菜……」

俺は、思わず口を片手で覆い、その場に立ち尽くした。

情けない。自分がした行動が、言葉が、どれだけ彼女を傷つけてしまっていたのか……考えるだけで胸が張り裂けそうだった。

どうして最後まで聞いてあげなかった?

いつからこんな自分になった?

いつから……花菜はなんでも許してくれると思っていた?


好きだから、愛してるから、言わなくても伝わってると思うから、夫婦は信頼しあっているものだから、それが当然だから、何を言ってもいいと思っていたのか?


愚か過ぎて、言葉にならない。

花菜、ごめん。

こんな夫で、ごめん。
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