マイ リトル イエロー [完]


……適当に会計を済ませて、俺は早々にコンビニを後にした。

外に出ると、春の柔らかい夜風が僅かに頬を擽り、車の白いライトが何度も横を通り過ぎた。

いつもは車移動で気づかないけれど、家の近くに公園ができたことを今更知った。そういえば花菜が、菜の花が咲いていたと嬉しそうに言っていた気がする。

確かに、街頭に照らされた部分だけ菜の花を確認することができた。

本当だ、俺は、花菜の言葉をちゃんと聞いてあげられていなかったんだな……改めてそう実感し、再び胸がズキンと痛んだ。

俺は、静かに公園に入り、菜の花に近づいて、そっと花に触れた。

その瞬間、いつかの花菜の言葉が、鮮やかな黄色と共に思い出された。


『聡真さん、菜の花の花言葉って、“小さな幸せ”って意味なんですよ』

『幸せの度合いって、人によって違うじゃないですか。殆どの人が見向きもしない、日常に転がってるような小さな幸せでも、私はそれに気づきたいんです』

『たとえば……あ、聡真さんが私の料理を美味しいって言ってくれることとか、御馳走様って言ってくれた瞬間とか』

『聡真さんは、私にとって菜の花みたいな存在なんです』


―――俺は、小学生ぶりに泣いたかもしれない。

花菜の言葉を、花菜の笑顔と一緒に思い出したら、涙が溢れて止まらなくなった。

花菜、花菜、花菜、ごめん。

俺は、最低だ。


花菜を自分のものにしたくて、告白した。

花菜を幸せにしたくて、プロポーズした。

花菜を安心させたくて、我武者羅に働いた。

花菜を守りたくて、もっともっと働いた。


全部、全部全部、花菜に笑って欲しくてしたことなのに、花菜の笑顔が消えていくことに気が付けなかった。
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