マイ リトル イエロー [完]
花菜が俺との結婚生活に求めていたことは、『小さな幸せ』がある日々だったのに。
それなのに、俺はいつしか『御馳走様』すらちゃんと言わなくなっていた。
黄色い菜の花畑で笑う花菜が、今も鮮明に瞼の裏に浮かぶ。
あなたが愛しい。だからあなたを守りたかった。何の不自由もなく暮らしていくことが、あなたを守ることの全てだと思っていた。
「花菜……っ」
……迎えに行こう、今すぐ。
手離したくない、手離せない。花菜がいなかったら、働いている意味すら見失ってしまう。
俺は、公園を出て、栄養ドリンクの入った袋を揺らしながら、咳き込みながら、車の鍵を取りに自宅を目指した。
マンションに着き、ロビーのセキュリティーを通ってからエレベーターに乗り部屋の前に着いた。しかし、鍵を開けドアノブを下げると、ドアが開かなかった。
もしかしてさっき鍵をかけずに出てしまったのかと不思議に思いながらも、俺はもう一度鍵を開けた。今度はちゃんと開いた。
ドアを開け中に入ろうとすると、俺は目を見開いて足を止めた。
何故なら、見慣れたブーツが玄関に置いてあったからだ。
「え……聡真さん……」
「花菜……どうして」
俺と同じように目を見開いた花菜が、玄関にやってきた。
3日会えなかっただけなのに、やけに久々にあったように感じて、胸の奥の奥が苦しくなった。
「さ、佐久間さんから具合が悪そうだったって聞いて……聡真さんが寝ているうちに薬や栄養ドリンク置いて帰ろうと思ってたの」
何も聞いていないのに、言い訳をするようにたどたどしく花菜が話し出した。
「でも、聡真さん家に居なくて……置くだけ置いて今ちょうど帰ろうとしていて……」
喧嘩してたのに、あんなに酷いこと言ったのに、俺のことを心配してくれたのか?
「あ、でも必要なかったね。聡真さんコンビニに買いに行ってたんだね」
花菜の言葉を最後まで聞かずに怒った俺を、心配してくれたのか?
「適当に飲んでくれていいから。必要なかったら捨てていいし。じゃあ私帰……」
「花菜」
ゴトン。
手に持っていた栄養ドリンクを床に落として、俺は体を震わせていた花菜を抱きしめた。