マイ リトル イエロー [完]

「花菜、ごめん……」

「え……?」

「ごめんっ……」

―――好きだから、愛してるから、言わなくても伝わってると思うから、夫婦は信頼しあっているものだから、それが当然だから、きっとどこかで何を言ってもいいと思っていた。逆に、花菜を大切に思う気持ちについては何も言わなくてもいいと思っていた。

伝わると思っていた。一度伝えたからそれでいいと思っていた。

でも、そうじゃない。


好きや愛してるという言葉は、やっぱり言葉だから、形には残らない。

何を言ってもいい関係が、信頼しあっている関係とは言えない。

愛されることを当然としてはいけない。


『当然』という気持ちで、人は愛の扱い方が雑になっていく。

『当然』という気持ちで、俺は一体どれだけ花菜に寂しい思いをさせたのだろう。


「そ、聡真さん、苦しいよ……」

花菜が、腕の中で小さな声で呟いたので、少しだけ力を緩めてこの間伝えられなかった言葉を口にした。

「花菜、一昨日俺の好きなものばっかり作って待っててくれたのに、遅れてごめん」

「え……」

「あの後、1人で全部ちゃんと食べた。美味しかった」

「そ、聡真さっ……」

「花菜のご飯を食べると、元気が出るよ」

そう言うと、花菜は俺の胸の中でポロポロと泣き始めたので、今まで口にしなかったことも全部言いたくなってしまった。

「疲れてる時も、花菜が迎えてくれるだけで癒される。俺が好きな番組いつもちゃんと録画しておいてくれてありがとう。花菜がアイロンをかけてくれたシャツを着ると、いつも気合が入るよ」

「そんなこと、思っててくれたんですか……?」

「朝仕事に向かう時、いつも花菜を守ろうって気持ちで出勤してる。花菜がいるから、頑張れるんだ」

「そんな……」

「花菜……花菜の言う小さな幸せってやつを、最近『当然』だと思っていたせいで、悲しい思いをさせたけど……」

俺は、ぐっと彼女を抱きしめる力を強めて、僅かに震える声をなんとか落ち着かせて、宣言した。


「もうこんな悲しい思い絶対させない。だから、これからもずっと俺のそばにいて」

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