マイ リトル イエロー [完]
* * *
「御馳走様です」
「あ、片付けますよ。ありがとうございます」
就職した当初は、大手の社員食堂の煌びやかさに驚いた。
ホテルのビュッフェのような、色とりどりの豪華なメニュー。料理だけじゃなく、洗練されたデザインの椅子やテーブル等、『食堂』という概念を覆す質であった。
食堂の社員が着用するサロンもオシャレで、さすが最先端を行く会社の食堂だと驚き感心した。
入社して1年目のあの日、私は1つの楽しみができていた。
それは、『久城』さんの御馳走様を聞くことだった。
「御馳走様ー、花菜ちゃんなんか今日顔青白くない?」
「わー、日野さん、えっ、そうですか?」
「うん。なんか具合悪いのかなって思ってたけど……大丈夫?」
「ファンデ厚塗りしすぎたかな?」
「ふ、そんな化粧濃くないでしょ花菜ちゃん」
わりとこの会社ではフレンドリーに社員食堂の社員に話しかけてくれる方が多く、数人知り合いもできた。
今話しかけてくれた日野さんは、この会社のSEの人らしく、会話が上手で、おしゃれで、今までずっとモテてきたんだろうなーといった感じだ。
トレーを受け取って、私は笑顔で彼を送り出した。
「御馳走様です」
それからすぐ、背後で低い声がした。
振り向かなくても分かった。私の毎日の小さな幸せは、この瞬間にある。
「あ、預かりますっ」
振り返り直ぐにトレーを受け取ろうと手を伸ばした。
「ああ、じゃあよろしく」
「はい、ありがとうござます」
「どういたしまして」
「? あ、はい、ありがとうございます」
「ぶ」