マイ リトル イエロー [完]
あのだだっ広い家に1人でいることが耐え切れなくなってこの仕事を始めた。
週に3.4回程度だけど、憧れのカフェで働くことができて私的には凄く嬉しかった。
何か仕事が無いか探していた時に、丁度大学の先輩だった西野さんがお店を開いたことをSNSで知り、働かせてもらうことになったのだ。
最初、聡真さんはそりゃあもちろん大反対だった。
生活資金が足りないならもっと増やす、みたいなことを言ってたような気がするけど、私はそれを断り無理矢理押し切った。
西野さんも驚いていたけど、理由を話したら呆れながらも採用してくれた。セレブぶってヨガとか行けばいいのにって。
でも、私はずっと働いてきたから、なんだか刺激のない毎日が退屈で仕方なかったし、いきなりライフスタイルが変わり過ぎてしまい戸惑いもあったのだ。
「ほら、サラダ」
「わあ、美味しそううう」
「それだけで足りるのかよ」
「十分です! いただきまーす!」
生ハムがたっぷり入ったサラダを、私は口いっぱいに頬張った。
西野さん特製のフレンチドレッシングは、生ハムの塩気と、新鮮な野菜と、本当によく合う。
今日は頑張ったから、と言って、フレッシュなマンゴージュースもつけてくれた。
一気に疲れが吹っ飛ぶ……。食べることが大好きな私の精神構造は単純だ。美味しいものを食べるだけで疲れが吹っ飛ぶなんて。
子どもみたいにがっついて食べている私のソファーの向かい側に西野さんが座った。
「本当美味そうに食うよな、お前」
ハッキリとした目鼻立ちの西野さんが、八重歯を見せて無邪気に笑う。
「美味しい! だからこのドレッシングの作り方いい加減教えて下さいよ!」
「やだね、門外不出」
私のお願いを一言で却下して彼は頬杖をつき、それから思い出したように問いかけた。
「旦那元気?」
「んー、忙しそう」
「またか。お前の旦那は本当に仕事好きだな」