マイ リトル イエロー [完]
コック帽を雑に取って、西野さんが怪訝そうに眉を顰めた。
朝はワックスで決めてた髪がぺたんとなった彼。ワックスの無駄ですね、と言うと、うるせーと頭を小突かれた。
「彼女が朝無理矢理やったんだよ」
「そっか、理穂ちゃん美容師ですもんね~、結婚しないんですか?」
「お前の結婚生活見てるとな……なんかな」
「真顔でなんてこと言うんですか……」
「お前浮気されてんじゃねーの?」
「なんてこと言うんですか本気で……」
「そんなに金持っててイケメンで浮気しないとか逆に病気だわ、病気。俺が聡真さんだったらセフレ4人くらい作るね」
西野さんのゲスな考えに眉を顰めていると、今度は思い切りデコピンをされた。いや、そりゃ、眉間に皴もよりますって。
それでも、これが世間一般の社会人のリアルな意見なんだ、と言い切る西野さん。
確かにその可能性もゼロとは言い切れないかもしれないけど、何よりも仕事を優先する聡真さんが浮気なんて面倒なことするとは思えない。
「あれ、そういや久城夫婦結婚記念日もうすぐじゃない? 確かお前の誕生日に結婚したんだよな。4月10日だっけ?」
突然思い出したように、西野さんが確認してきた。
「そうです。生まれた日に菜の花が満開だったから、そのまんま花菜になったんです」
「ううわ、俺あの黄色見るとくしゃみ出んだよね。忌まわしき花粉の時期に生まれやがって……」
「理穂ちゃんもたしか春生まれじゃないですか」
「……あれ、そうじゃん……リアルに彼女の誕生月忘れてたわ……」
「最低ですね」
ふっと鼻で笑うと、急に西野さんが真剣な表情になった。
「なあ、今度の火曜空いてる?」
「一緒にプレゼントなんて選びに行きませんよ。私も既婚者ですからね」
「バカヤローそんなのこっちも願い下げだ気色悪ぃ」
「どうしよう聞き捨てならなさ過ぎて……」
彼が言いだすことを予測し先回りして断りを入れたが、どうやら私が考えていたこととは違う提案をしようとしていたらしい。
私はてっきり一緒に買い物に付き合って欲しいと言われると思っていた。
「理穂とご飯食べに行ってなんとなく欲しいものリサーチしてくんね?」
「ご飯代はもちろん請求しますからね」
「分かってるよ。好きなもん食ってこい」
「おお、冗談で言ったのに……」