マイ リトル イエロー [完]
理穂ちゃんは私の行きつけの美容院の美容師だから、知り合いなのだ。
連絡先も知ってるし、お茶もしたことある。
彼女が西野さんの彼女と知った時は、本当に驚いた。世間は狭過ぎる……と改めて実感したほどだ。
「らぶらぶですね」
「まあ、まだ恋人っていう関係だからな」
「私達は恋人の時も今とおんなじような感じでしたけどね……」
「……今墓穴掘ったのはお前だぞ。俺は謝らないからな」
「結婚して変わったことを強いて言うなら呼び方が下の名前になったくらいかな……」
西野さんは彼女のことがなんだかんだ大好きなようで、見てるこっちが幸せになってしまう。いや、嘘だ幸せにはならない正直羨ましいし妬ましい。
そんな2人を見てると、私と聡真さんの恋人時代を思い出す。
少なくとも現状よりは、聡真さんも私に時間を割いてくれていた。
「お前らどんな風にして付き合ったの? あの聡真さんがお前に愛を告白するときって、どんなだったの?」
突拍子もない質問に一瞬固まったが、私は冷静に切り返した。
「想像つかない?」
「まったく」
「だよねえ~」
「なんだよ、あんまり話したく無さそうだな」
組んだ足の膝の上に肘を乗せて、頬杖をつきながら西野さんが苦笑する。
「だって現状がこれなんだもん、過去に浸るってなんか虚しいじゃん……」
「その分贅沢な暮らしさせて貰ってんだろー」
「お金は確かに必要だけど……」
必要だけど、でも、それだけじゃやっていけないこともある。
マンゴージュースをストローで吸い上げた。みずみずしくてフレッシュな甘さが、口の中いっぱいに広がった。
出会って1年、付き合って2年で結婚して、現在結婚して2年目。
4つ年上の聡真さんは、今が一番働き時で、一番重要な時期だってことも、分かってる。私だってそんなに子供じゃない。
マンゴーの甘さとは正反対の自分の現状を顧みて、私は表情を暗くした。
そんな私を見て、西野さんがすっと席を立って、マンゴージュースのおかわりをくれた。
甘くて、なめらかで、優しくて。
その鮮やかな黄色を見て、私は1年前のことを思い出していた。