私を惚れさせて。私の虜になって。
「よっし。いい子」

みんなが、笑う。

そんなところじゃないのに。

「それじゃあ、帰っていいよ」

もう、本当にお別れかな。

お別れ、なんだよね。

「あの…お母さんには…」

やっぱり私は未練がましい。

「え?あんたのお母さん?」

あ。

「それは家出でしょー?」

お母さんは、もう、お母さんじゃないのね。

私が会う資格は、ないってことね。

「あ、言い忘れてたけど」

まだ、何かある。

「あなたが住んでるあの家は、片付けて売りに出すから」

「……えっ」

「持ち主が居なくなった家は、そうするしかないでしょ」

もう、どこまでも意地悪だ。

そんなに、私が嫌い?

「……ありがとうございました」

頭は下げないで、来た道を戻った。


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