私を惚れさせて。私の虜になって。
「松木、じゃん…」

「そーだよ」

暗闇でぼんやりと見えた松木は笑っているようだ。

「近いの?」

「すぐそこだよ」

松木に駆け寄ったら、手を握ってくれる。

「男みたいな格好してんな」

「男の服な」

「まーはセンスねぇな。真っ黒はねぇだろ。ゴキブリみたい」

だっぼだぼのスウェットをつまむ。

「ゴキブリって、私てっかてか」

「そこか?」

「色々あるけどまずは見た目」

「確かに」

笑った松木は、

「ここ」

奥まった一軒家を指した。

「すぐ寝よーぜ。俺今すぐ寝れる」

あくびしながら玄関のドアを開けてそのまま階段を上る。

「歯、磨いてない」

「まじ?」

「…うん」

「磨いてこよっか」

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