私を惚れさせて。私の虜になって。
松木の背中にそっと顔を寄せた。

松木の、大好きな匂いがする。

「ねぇ」

「ん?」

風の音と、松木の声。

「もっと、ゆっくりがいい」

こんなん、すぐに塾に着いちゃう。

「ゆっくりだな」

次に聞こえた声は、風の音が小さくなってから。

「おいっ!おせーぞ!」

やっぱり、せっかちなまーくんは後ろを向いて怒り出す。

「すがちゃんのスカート絡まったら大惨事だろ!先行ってろ!」

よく聞こえる声。

「やったね」

2人っきりだよ。

「なんか言った?」

拾われなかった言葉は、

「何でもない」

それで、よかったんだ。

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