恋するバンコク
タワンと瞳が付き合う?
今まで一度も考えたことのないことを言われ、すぐには理解ができなかった。
その後何度か高志が電話をかけなおしていたけれど、ふたたび繋がることはなかった。
結は求人誌を片手にぼんやりした頭のまま高志に背を向けて、気がついたらアパートへと帰って来ていた。
パサリ。
求人誌をテーブルに置くと、その拍子にポロリとそれがカーペットに転がり落ちる。
雫の形の、薄青いペンダント。
そっと拾い上げる。しんしん冷えた室温を吸いこんでか、それは朝方の水のように冷たかった。
裏返す。刻まれたタイ文字。結には読めない言葉を、読めないことを承知で刻んだ彼を、思った。
君のことを愛し続ける
必ず幸せにする
「どうやって、読むんだろうね」
勉強すればよかった。こんなふうに、まだ伝えあえないことが、理解が及ばないことがある。
その差がもどかしくて、少し屈託もあって、だけど違う国だからこその驚きも感動もあった。
屋台でローカルフードの食べ方を教わった。
夕闇に見たワット・ポーやワット・アルン。祈りをささげる美しい後ろ姿。
日本人同士だったら知らないこと、見れない面をみせてもらった。
恋人は高志みたいに日本人がいいの
自分の放った言葉を思い出して、苦く笑う。
タワンにゴーホッ(うそつき)と言われたことがあった。
ほんと。嘘つきね。
掌のペンダントが、じわりと淡く滲んでいった。そのまま消えてしまうのかとおもってまばたきをすれば、雫の形のそれにポツッと雨粒のような涙が落ちる。
ポツッポツッ。
「――――っ」
俯いた勢いのまま、ごろりと丸まる。体が小刻みに震える。
いたい。
胸がいたかった。
馬鹿だ。
こんなにつらいのに、どうしてあんなこと言えたんだろう?
好きだ。
タワンが好きだ。
一時間後も、夜寝る前も、眠ってからも、明日も、あさっても。
ずうっとその気もちが続くだけだ。
その事実が胸に沁みこんで、とめどなく涙があふれる。
瞳と付き合うなんて、そんな冗談みたいなことも、確認するすべがない。そのことが嫌だった。
ついこの間まで、振り返ればいつも彼はそこにいたのに。
ああ。
バンコクはなんて遠いんだろう。
今まで一度も考えたことのないことを言われ、すぐには理解ができなかった。
その後何度か高志が電話をかけなおしていたけれど、ふたたび繋がることはなかった。
結は求人誌を片手にぼんやりした頭のまま高志に背を向けて、気がついたらアパートへと帰って来ていた。
パサリ。
求人誌をテーブルに置くと、その拍子にポロリとそれがカーペットに転がり落ちる。
雫の形の、薄青いペンダント。
そっと拾い上げる。しんしん冷えた室温を吸いこんでか、それは朝方の水のように冷たかった。
裏返す。刻まれたタイ文字。結には読めない言葉を、読めないことを承知で刻んだ彼を、思った。
君のことを愛し続ける
必ず幸せにする
「どうやって、読むんだろうね」
勉強すればよかった。こんなふうに、まだ伝えあえないことが、理解が及ばないことがある。
その差がもどかしくて、少し屈託もあって、だけど違う国だからこその驚きも感動もあった。
屋台でローカルフードの食べ方を教わった。
夕闇に見たワット・ポーやワット・アルン。祈りをささげる美しい後ろ姿。
日本人同士だったら知らないこと、見れない面をみせてもらった。
恋人は高志みたいに日本人がいいの
自分の放った言葉を思い出して、苦く笑う。
タワンにゴーホッ(うそつき)と言われたことがあった。
ほんと。嘘つきね。
掌のペンダントが、じわりと淡く滲んでいった。そのまま消えてしまうのかとおもってまばたきをすれば、雫の形のそれにポツッと雨粒のような涙が落ちる。
ポツッポツッ。
「――――っ」
俯いた勢いのまま、ごろりと丸まる。体が小刻みに震える。
いたい。
胸がいたかった。
馬鹿だ。
こんなにつらいのに、どうしてあんなこと言えたんだろう?
好きだ。
タワンが好きだ。
一時間後も、夜寝る前も、眠ってからも、明日も、あさっても。
ずうっとその気もちが続くだけだ。
その事実が胸に沁みこんで、とめどなく涙があふれる。
瞳と付き合うなんて、そんな冗談みたいなことも、確認するすべがない。そのことが嫌だった。
ついこの間まで、振り返ればいつも彼はそこにいたのに。
ああ。
バンコクはなんて遠いんだろう。