死にたがりカップルが未成年で夫婦になった話
誰も話しかけてくれる人はいなかった。
数日前までは普通に話しかけてくれた友人も今では目も合わせてはくれない。
まだ仲が良かった頃に渡していた手紙は先日教室の隅に置かれたゴミ箱にビリビリに破かれて捨てられていた。
私の悪口は瞬く間に広まり男の子からは陰でガイコツと。
女の子からは陰でジョーカーと。
それぞれ違うあだ名を付けられてくすくすと笑われ惨めに一人過ごしていた。
「はい、これ。大丈夫?」
「え、あ…ありがとう」
前の子が、プリントを回してくる。
顔を伏せた私に気をかけてくれる。
今は五時間目、数学の移動教室の時間だ。
ここには私の敵はいなくて、周りは私の知らない人が大半を占めている。
この時間だけが唯一、私の気が落ち着く時間だった。
「神田さんいつも寝てるよね。そんな眠いの?」
前の子は社交的な子なんだろう。
いつも顔を伏せている私を気にかけて話しかけてくれた彼女の名前を、私は知らなかった。
名前で呼ばれたのはいつぶりだろう。
学校で声を出したのはいつぶりだろう。
そんな些細なことにでも泣きそうになる自分に嫌気がさした。